団体からのお知らせ・インタビュー
[座談会企画]道内地域におけるフードバンク活動のいま(1)
国内では2000年頃から、食品の製造や加工の過程で発生する規格外品等を引き取り、福祉施設等へ無料で提供する「フードバンク」と呼ばれる活動が広がりました。まだ食べられるにも関わらず、食品が廃棄されてしまう、いわゆる「食品ロス」削減の観点から、国では農林水産省が中心となって活動を支援しています。新型コロナウイルス感染拡大の長期化により、生活困窮者に向けた有効な支援策としても期待されています。
前身である北海道内中間支援組織「コロナアクション」として開始した座談会も、今回で3回目となりました。第3回座談会では、地域でフードバンク活動を展開している道内の3つの団体に、オンラインでお集まりいただきました。取り組みを始めたきっかけや具体的な活動の内容、いま抱えている課題やこれからの展望についてお話をうかがい、中間支援ネットワークとして活動の実態を学ぶとともに、課題を解決できるよう、活動団体同士や関係機関との連携・協働を考えます。
※この企画は2022年2月26日に開催しました。2回に渡って記事を掲載します。
右写真:スピーカーの皆さん
(上左から、中森さん、河津さん。下左から、根本さん、井上さん)
スピーカーの皆さん
◆フードバンク千歳 すまいるはーと(千歳市)
代表 根本幸枝(ねもとゆきえ)さん、副代表 河津佳澄(かわづかすみ)さん
◆NPO法人ピーシーズ(フードバンク旭川)(旭川市)
理事長 井上俊一(いのうえしゅんいち)さん
◆フードバンク道南協議会(函館市)
事務局長 中森 司(なかもりつかさ)さん
◆主催:北海道中間支援ネットワーク
・座談会進行:竹田剛憲(北海道立市民活動促進センター)
丸藤 競(函館市地域交流まちづくりセンター)
・記録:溝渕清彦(環境省北海道環境パートナーシップオフィス)
ひとり親世帯のフードパントリー事業「0円スマイルマルシェ千歳」
― フードバンク千歳 すまいるはーとの活動について教えて下さい
根本:私は千歳生まれの千歳育ちで、普段は幼稚園教諭をしています。千歳駅前で、人と人が本を通じてつながる「まちライブラリー@ちとせ」のスタッフとしてもつとめており、1月に再開しました。本日は副代表の河津佳澄さんと参加します。よろしくお願いします。
私は2年前に「フードバンクネットワーク もったいないわ・千歳」の活動に参加して、2020年4月から2021年9月まで理事を務めました。「もったいないわ・千歳」は2010年8月に市民活動団体として設立され、2020年にNPO法人になりました。企業の期限切れの食品や農家の規格外の野菜を破棄するのはもったいない、福祉団体や生活困窮者に有効に活用してもらおうということで発足した団体です。
ボランティア活動をする中で、私たちは特にひとり親世帯のフードパントリー事業(何らかの理由で十分な食事を取ることができない状況の人々に食品を無料で提供する支援活動)に取り組みたいと考え、2021年10月に賛同したメンバーで「0円スマイルマルシェ千歳」を開始しました。
今後も必要とする方に長く支援をしていきたいと考え、2021年12月に市民団体「フードバンク千歳 すまいるはーと」を立ち上げ、千歳市に登録しました。いまは正会員7名と、学生ボランティア3名で活動しています。
「0円スマイルマルシェ千歳」を始めたのは、それまでの活動の中で、支援を受ける方たちからマイナスな言葉ばかりが耳に入ってきたからです。例えば「申し訳ない」や「恥ずかしい」、「こういうものをいただいているのを見られて、子どもがいじめられたら困る」とか「私たちより困っている人がいるのではないか」というような言葉です。そんな気持ちにさせることなく、必要としている人に、必要としているものを支援して、少しでも笑顔になってもらいたい。みんなで助け合い、地域社会で子どもたちの成長を見守ることができればいい。そういう思いで開催したのが「0円スマイルマルシェ千歳」です。
また私は、絵本を通じて人を笑顔にすることや、人をつないで交流できる安全な場所づくりをしたいと考えていました。職業柄、絵本が大好きで何百冊も手元にあるので、「もったいないわ・千歳」さんの事務所を借りて、個人で「えほんらいぶらりー千歳」をオープンしました。全国のまちライブラリーと連携し、親子の交流の場づくりなど、絵本を通じた支援をしています。
1回目の「0円スマイルマルシェ千歳」は、商店街振興組合の場所を借りて実施しました。たくさんの企業や個人の方から、食品や生活必需品が集まりました。養鶏農家のモチツモタレツ(長沼町)さんから卵を、八森ファーム(栗山町)さんからはお米をいただきました。告知には北海道新聞や地元情報誌が協力してくださり、自分たちでもチラシをつくってSNSで情報発信を行いました。
1回目はシングルマザーへの無料配布ということで、千歳市内の50世帯を支援しました。頑張っている地元の企業や団体を応援したい気持ちもあり、協力いただいた商品を並べて親子で選んでもらう方式にしました。また「食品ロス」のことも考えてほしいと思い、参加した方には必要なものだけを持っていっていただくようにしました。親子で「これは必要だ」「これは家にあるからいらない」というように話し合って、最低限、必要なものを選んでもらいました。
「0円スマイルマルシェ千歳」には、たくさんの方から賛同、支援をいただき、必要とされる活動だということを、あらためて感じました。その後はシングルマザーに限らず、ひとり親世帯を対象に取り組み、10月から最近まで月に1回開催しています。
シングルマザーには、なかなか自分の時間を持つことができない、相談できる人がいないという悩みがあります。いまでも申し訳なさそうに来場される方もいます。食品の配布だけではなく、お弁当の配布や子ども食堂を開くなど、気軽に、安心・安全に参加できる「第三の場所」をつくり、恥ずかしいという気持ちや、子どものいじめが起きないよう、地域社会で子どもたちの成長を見守ることができればと思います。そうした社会づくりに向けて、今後もスタッフで取り組んでいきますので、ぜひ応援をお願いします。
継続性のあるフードバンクのしくみを
― ピーシーズ(フードバンク旭川)の活動について教えて下さい
井上:旭川でフードバンクに取り組んでいます。私どもはフードバンク事業を、どのように切れ目なく、継続して活動できるかを最初に考えて事業を設計しました。無料でいただいたものを無料で配るので、そこに利益は出ませんよね。活動の継続性を考えたときに、かなり困難だろうと思いました。
実は最初は「フードバンク」という言葉を知りませんでした。「食品の再分配活動」という表現で、銀行から融資を受ける際、担当者から「それはフードバンク活動ではないですか?」と助言がありました。「いろんな方から善意でいただいた食品を、困窮されている方に活用する事業ですよ」と教えてもらい、「フードバンク」という言葉を使うことにしました。
私はもともと障害者の就労支援事業、就労継続支援と就労移行支援に取り組んでいる社会福祉法人の職員でした。その時に、まだ食べられるのに捨てられる余剰食品が、世の中にはいろんなパターンで存在するということを知りました。一方で、生活困窮者の方たちに、食品が十分に行き渡っていないという現状を目の当たりにして、その中継ぎができないかと考えました。
ただし、それは継続性がない、一過性のものだとよくないなと。それで考えたのが、フードバンクに関わる作業自体を、障害者の就労支援として取り組む方法です。普段、支援を受ける側のメンバーたちが、寄付された食品を、消費期限別に棚に並び替えたり、あるいは支援者が来たら、世帯毎に食品を何日分、例えば運動部の活動をしている子どもさんもいるよということであればたくさん食べますので、そうした家族の構成によって、食品をまとめて、お渡ししたりします。こういった作業を就労支援事業として取り組むことによって、ベースとなる受け皿が安定して運営できるのではないか、と考えました。
フードバンク事業を開始したのは2016年です。このころは非常に微妙な時期で、あるファストフードチェーンの食品消費期限偽装が取りざたされました。道内では、食品加工卸売会社が廃棄冷凍コロッケを買い取って出荷する大事件もありました。ですから、企業をまわって食品の提供のお願いをしても「横流しされたら、どうもならんよな」という反応をばんばん受けた時代でした。もちろんその一方で、活動を理解してくださり、「余剰が出たときに提供するよ」という企業もありました。
ただ企業からだけでは、必要とする食品が集まりにくいという課題があるので、市民参加型の取り組みも強化することにしました。たまたま事務所の近くに一軒、銭湯がありまして、相談に行きました。すると当時、旭川では二十数軒の銭湯が加盟していた「旭川浴場組合」を紹介いただいたんですね。銭湯は昔ほどではありませんが、地域ごとの社交場としての役割があります。そこで、フードバンクの取り組みに協力していただけないか、銭湯に来た人が自宅にある余剰食品を持ってきてもらえるよう、食品の回収ボックスを置かせてほしいと、組合長さんに相談すると「おもしろいね、やってみようか」と話に乗ってくれました。5軒ほどが参加してくださり、ボックスがいっぱいになると銭湯から連絡を受け、回収に行く取り組みがスタートしました。
最近では2週間に1回、回収しています。もちろんその前に満杯になれば、就労支援の作業の一環として回収に向かいます。就労支援のメンバーたちも、支援をする側にまわるという体験をリアルにできます。こうした活動を実施して、はや5年が経ち、今年6年目に突入しています。
強みを活かし市内4団体での連携
― フードバンク道南協議会の活動について教えて下さい
中森:私たちは2018年2月に活動を始めました。一般財団法人北海道国際交流センター(HIF)と一般財団法人函館YMCA、NPO法人ワーカーズコープ茜(あかね)、北海道高齢者協同組合(高齢協)道南地域センター「茜」という、函館市内4団体で協議会を構成しています。ワーカーズコープ茜は、生活困窮者の自立支援の事業を市から受託しています。高齢協は、高齢者のサークル活動を支援しています。また、動けない方のお宅の除草、除雪等のお手伝いをするなどの事業を行っています。私はNPO法人ワーカーズコープ茜と、高齢協道南地域センターの代表をしつつ、フードバンク道南協議会の事務局長をしています。函館市社会福祉協議会には後援をお願いしています。
最初は2018年4月くらいから、食品を入れる箱を置いてもらえないかと相談しに、町内会を20か所ほどまわりました。なかなかうまく協力を得られませんでしたが、現在4つほど、町内会館に箱を置かせてもらっています。箱に入れていただいた食品を取りに行くというところから活動を始めました。
最初はなかなかものが集まらない中で、主に子ども食堂や児童養護施設など、子どもを支援することから活動を始めました。現在は生活困窮者からのニーズが多くなりましたので、そちらの方に支援の重点を移しています。
活動を開始して1年目は、食品は1トンも集まらない状況でした。地道に活動を続け新聞にも掲載され、市民や企業からも協力をいただけるようになりました。今年度は例えば、北教組渡島支部さんからお米10万円分、函館白百合学園高校福祉局さんからもお米10万円分、北海道太平洋生コン(函館市)さんから約1.7トンのお米をいただいています。先日は北海道行政書士会函館支部さんから700kg(昨年に続いて2回目)のお米、函館法人会さんからも約1.65トンのお米と缶詰、麺類、牛乳をいただいたりして、多くの団体に集まったものを提供しています。ときどき、函館市漁業協同組合青年部長からは取れたての魚を、函館市亀田農協さんからは新鮮な野菜をいただいています。週3回美味しいパンも提供してもらっています。
私たちは、いただいたものを各家庭に届けるのではなく、函館にはたくさんの支援団体があるので、そういった団体と提携して、食品などをお渡ししています。提供先には、前述した子ども食堂などがあります。いまコロナ禍で、子ども食堂ではほぼテイクアウトになっています。それから児童養護施設2か所、ウィメンズネット函館、更生保護施設2団体、青少年の自立支援2団体、フードパントリー1団体、函館市や北斗市、七飯町で母子家庭を支援している各団体とも提携しています。この他、道南在住の技能実習生約50人を支援している湯川カトリック教会に物資を提供しています。
函館市生活支援課や函館市社会福祉協議会から、生活保護を支給したいが、お金が出るまで2週間程かかるので、その間の食品をなんとかできないかという相談も時にあり、こちらから担当者に食品をお渡しすることもあります。
活動に対する地域の理解と連携
ー 団体によって、対象の軸がシングルマザーであったり、就労支援事業と接続したり、技能実習生の支援も行っていたりと、それぞれの特徴があると感じました。井上さんにおうかがいしたいのですが、旭川では銭湯にボックスを置いていただいたとのこと。浴場組合の協力はどのように得たのでしょうか。
井上:事務所の近所の銭湯の方から、エリアの組合長と調整することが重要だと助言いただきました。そこで組合長とは「いま銭湯の利用者がどんどん減っているが、このように工夫をして人を集めている」という話や「昔は近くの農家の母さんが漬物を持ってきてお風呂上りにみんなで食べたり、情報交換したりするというような役割があった」という話をしていく中で、「ぜひ協力しましょう」と言っていただけました。ただ、小規模の銭湯では「ボックスを置くスペースがないよ」というところもありますので、比較的大きい銭湯が手を挙げてくれました。
月に1回、浴場組合の会合があって、その場でプレゼンして、皆さんにご理解いただきました。実は組合長さんがある程度、大きな銭湯には根回しをしてくれていたそうです。そうして活動開始当時は5か所、いまは残念ながら1か所が廃業され4か所になりましたが、ご協力をいただいています。
ー 千歳では、商店街振興組合連合会の場所を借りて実施されたとのことですね。こちらはどのように協力いただいて、どのような成果がありましたか。
根本:私たちの活動を理解してくださったニューサンロード商店街振興組合の方が、会場を貸してくださいました。資金のない団体ですので、安価にお貸しいただけたのでは大変ありがたいです。また、その方が商店街振興組合の会長さんや周りのお店の方、町内会の方もご紹介くださいました。そのおかげで人の輪が広がり、いろいろなご支援をいただきました。
シングルマザーは若い方が多いです、マルシェをきっかけに商店街に足を運び、お店を知り、商店街とつながりができたのはよかったです。ただ、空き店舗も多い通りですので、マルシェの後に、立ち寄るところがあまりないというのが現状です。
― 函館は4団体で協議会を設立していますが、連携はスムーズでしたか。また、町内会との連携の難しさについて、ぜひ詳しく教えてください。
中森:HIFは「生活就労サポートセンターひやま」(江差町)を運営しているなど、構成団体それぞれが困窮者支援、子ども支援に携わっており、顔見知りでもあったので、呼びかけにすぐに応じてもらえました。
最初は町内会をまわって、「子ども食堂や児童養護施設を支援したいので、食品を入れていただく箱を置かせてください」とお話ししました。ただ、子ども食堂に対する理解は、いまよりははるかに低く、「子どもたちがみんな困っているわけではないでしょう」と言われたこともありました。
確かに、昔のようにツギハギの服を着ているわけではないので、見た目では分かりませんよね。でも本当は、困っているかもしれません。それにいまは孤食の問題もあるので、みんなで楽しく食べる体験を味わってもらえる子ども食堂の取り組みは、非常に大事です。しかし当時は、そうした理解がいまほどはありませんでした。今年になって七飯町大沼で子ども食堂ができましたし、江差町でも動きがあるようです。全国では約6,000か所、子ども食堂があるとされており、さらに増えているようなので、それだけ理解も深まってきていると思います。
ー(2)に続きます。
北海道中間支援ネットワークって?
今日の座談会を主催する「北海道中間支援ネットワーク」の前身は、コロナ禍への対応を考えて生まれた道内の中間支援センターの連携団体「コロナアクション」です。「コロナアクション」では道内の中間支援センターが定期的に集まって、新型コロナウイルス感染症の地域への影響や支援の状況などを共有し、対応策を考えたり、市民活動団体を対象としたアンケート調査を実施して、道庁に対して調査結果を踏まえた要望などを行ってきました。
コロナ禍がもたらした地域社会の混乱はまだまだ収まっていませんが、「コロナアクション」の取り組みを発展させて、全国の中間支援センターとも情報共有を行い、道内で普段から学び合えるような活動ができればと、昨年度「北海道中間支援ネットワーク」を設立しました。市民活動を支えるプラットフォームとして、全道的に力をあわせて取り組んでいきたいと考えています。
記事作成
溝渕清彦(みぞぶちきよひこ)
環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)
【4/20.27オンライン説明会】北海道NPOファンド・地方における学習・能力向上機会の拡充による選択格差の解消【休眠預金等活用法助成】
※公募開始前のプログラムです。
認定NPO法人北海道NPOファンドは、一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)の2021年度通常枠公募(第2回)の休眠預金等活用法に基づく資金分配団体に内定しました。
事業期間は2022年から2025年までです。
事業名は「地方における学習・能力向上機会の拡充による選択格差の解消~小中を通じた「なりたい自分」の選択視野を広げる地域教育」です。
本事業の連携団体は北海道NPOサポートセンター、コープさっぽろです。
採択見込みは3団体、助成額は1団体あたり3年間で総額2000万円を予定しています。
オンライン説明会
- 4月20日(水)10:00-11:30
- 4月27日(水)19:00-20:30
申込フォーム https://forms.gle/TH6bc46tCGryvLKe7
事業計画・事業計画
[インタビュー]働くことについて、気楽に真面目な話をする場~ハタモク北海道 中田さん
NPO法人ハタモク北海道
学生と社会人が働く目的を語り合う「ハタモク」事業
(令和3年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 さくらマネジメントグループ基金助成事業)
北海道の学生と社会人で「何のために働くのか」を気楽に真剣に語り合える場を創る、増やす活動を行っているNPO法人ハタモク北海道を取材しました。働く目的や意味を考えるきっかけや、社会人との交流の機会としてワークショップ『ハタモク』を開催しています。
今回はオンラインにて、代表理事の中田隆太(なかたりゅうた)さんにお話を伺いました。
学生と社会人が、働くことについて自由に話をする場をつくる
― まず、ハタモク北海道の活動について教えてください
『ハタモク』というワークショップ形式のイベントは、東京でスタートしたものです。東日本大震災があった2011年に、学生と社会人の交流の機会や、働くことについて、気楽に真面目な話をする場が必要ということで開始し、全国各地で開催されています。私は、たまたま縁があって、2012年に東京で開催されていた会に参加して、「北海道でもやりたい!」という思いを抱きました。
東京のメンバーの協力を得ながら、2013年に北海道で初めての『ハタモク』を開催しました。その後、学生と社会人が、働くことについて自由に話をする場をつくることを目的として、2年ほど任意団体として活動し、2016年にNPO法人として再スタートしました。
私自身は、大学で就職支援の部署で仕事をしているのですが、学生の中には、働くことについて考える機会を持つことができないまま就職活動に入り、「内定を取る」ことが目的になってしまっている人もいます。就職に関するセミナーの中心は、面接の方法やエントリーシートの記載方法といったものになってしまいがちです。そして、「身近な社会人」というと、保護者やアルバイト先の人がどうしても中心になってしまいます。「社会人」と一言で言っても、いろんな人が世の中にいる。『ハタモク』は、そういう人たちと関わる機会をつくるイベントでもあります。
以前は、参加者の中心は大学生でしたが、最近は高校生が増えてきました。札幌だけではなくて、全道に展開中ですが、エリアによって、参加者層が異なります。旭川では高校の先生がメンバーにいるため、高校生の参加者が多いですね。
現在、スタッフとなっているメンバーは15人ほどで、高校生・大学生・20代~50代の社会人が入れ替わりながら運営しています。新しいアイディアは若いメンバーから出されて、「やりたい人ベース」でパッとスピーディーにやる傾向があります。オンラインでの『ハタモク』開催も、「とりあえずやってみよう!」という声が上がり、昨年チャレンジしました。SNSの活用や、オンラインと対面でのハイブリッドでの開催も、学生メンバーからの提案でした。
ハイブリット形式での『ハタモク』開催
― 今回の助成事業について教えてください
以前の『ハタモク』では、参加者同士は近距離で、膝を突き合わせて話をしていたので、かなり密な状態となっていました。当然、コロナ禍では同じような対面での開催が難しくなり、2020年度は完全オンラインで数回開催しました。しかし、あらためてオンラインだけではなく、対面での交流も機会も必要と感じました。
徐々にイベント開催に際しての感染症対策や、参加方法の選択肢も増えてきたので、助成事業の内容は、オンラインと対面のハイブリット形式での『ハタモク』開催です。グループに分かれて話し合いをするので、オンライン参加の方がどのような形で参加できるか、そのための環境整備のための備品調達などが必要になり、助成申請しました。
既に6月と10月に実施しており、次は12月に開催を予定しています。開催形式は、会場の収容人数に対して、対面での参加者数を限定した上でオンライン参加者を募り、ライブ配信でつなぐという形です。会場全体を写すカメラや、音声がしっかり入るように性能の良い集音マイクを用意して、オンライン側も会場側も差が出ないように、運営側としては万全の準備をしました。やってみたら「意外といけたな」という感じでした(笑)。感想や参加者からのリアクションには、対面開催時と、あまり差はみられなかった印象です。
これからの社会がどのように変わっていくのか
― コロナ禍において、活動への影響や学生の様子はいかがでしょうか?
以前はイベント開催だけでなく、高校の探求学習などで社会と接する機会を通じてイベントの開催・運営に興味を持った生徒の活動をサポートしていたこともありますが、コロナ禍における『ハタモク』の活動としては、あまり変わっていません。
2020年は、小中学校も含めて一斉休校にもなり、それが新年度とも重なって、新しい環境においても、「なにもできない」というストレスや不安を感じている学生が多かったと思います。その時に、最も「だれかと話をしたい」というニーズが高まったのではないかと感じています。いま置かれている状況下で、外とのつながりを求めている感は強いです。コロナ禍2年目になり、オンラインの活用や対面での機会が増えてきたことにより、1年目ほど「困った・困った」という雰囲気は減りましたが、『新しい生活様式』でこれからの社会がどのように変わっていくのか、これまでやってきたことがどのように変化していくのか、より真剣に考えるようになりましたね。
「やりたいひとベース」で動く
― 運営上の課題や、今後の活動について聞かせてください
コロナ禍以前は、網走や函館、室蘭などでも開催していたので、また道内の他の地域でも開催したいと考えています。ハイブリッド形式だと、開催地に限らず全道から参加できるので、より多くの人に参加してもらいたいと思っています。
運営メンバーに専従のスタッフはおらず、全員が社会人か学生で、ボランティアで関わっているため、どうしても時間の制約があります。平日に様々なところを訪問して打ち合わせすることは難しいですね。また今後、感染症の状況が落ち着き、移動ができるようになると、宿泊費や旅費がかかるのでそれはそれで、課題です(苦笑)。
専従スタッフを置くとなると、かなり大きな舵を切ることになりますね。今の活動は、人を雇う規模ではないと思っています。学生を対象とした事業なので、受益者負担では限界がありますが、就活イベントとは違うので、企業関係者や社会人も、あくまでも個人としての参加をお願いしています。
開催頻度が多くなったり、助成金を受けると、正直なところ事務的な負担は増えますが、今のところは、今後も、私たちの考え方に共感してもらい、「やりたいひとベース」で動くという、現在のスタイルを継続していく方向で考えています。
インタビューを振り返って
高校生や大学生のうちから、働くことについて社会人と話せる場をつくる、という活動はこれからニーズがますます高まると思います。また、「やりたい人ベースで動く」スタイルは、参加する社会人にとって魅力的でしょうし、その中で若い世代がどんどんアイディアを出しているということで、好循環を生み出していると感じました。学生、社会人の力を活かすという意味で、参考になるお話が聞けたと思います。(高山)
インタビュアー
高山大祐(たかやまだいすけ)
北海道NPOファンド
※インタビューは、2021年11月18日にオンラインにて行いました。
記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局
【2/14募集開始】令和4年度 さぽーとほっと基金・新型コロナウイルス感染症対策市民活動助成事業
さぽーとほっと基金・新型コロナウイルス感染症対策市民活動基金
令和4年度の助成事業募集を開始しました。
さぽーとほっと基金は、札幌市が募集し、町内会・ボランティア団体・NPOなどが行うまちづくり活動に助成することで、札幌のまちづくり活動を支える制度です。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、札幌市内でも様々な分野で危機的な状況が続いていますが、市内には、感染症リスク低減対策を実施しつつ、新型コロナウイルス感染症対策に関する活動を行っている、または実施を検討している市民まちづくり活動団体があります。
新型コロナウイルス感染症対策市民活動基金は、こうした活動を応援することによって、新型コロナウイルス感染症による影響を受けた方々を支援するため、また、札幌市の市民まちづくり活動を今後も活性化させるため、「さぽーとほっと基金」内に設けている基金です。
2020年度に助成を行った団体は、29団体。助成合計額は3,000万円となりました。
こちらのページにて、詳細を掲載しましたので、ぜひご覧ください。
[インタビュー]ひきこもりの循環型共生社会を実現できるように~レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中さん
NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク
長期在宅ひきこもり世帯の家族関係対話修復事業
(令和3年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 ひまわりピアサポート基金助成事業)
ひきこもりの長期化に伴う高齢化という問題の背景には、親子の対話が無い、意見のすれ違いからの対立など、家族関係の問題があるという指摘があります。
1999年の発足以来、外出が難しく、一般就労が困難なひきこもり者とその家族等に対し、手紙・メールによる相談や、出張相談などを行っているNPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワークを取材しました。
今回は、理事長の田中敦(たなかあつし)さんに、オンラインでお話を伺いました。
『ピア・アウトリーチ』という活動
― まず、レター・ポスト・フレンド相談ネットワークの活動について教えてください
1999年9月1日に発足し、2010年3月にNPO法人化しました。22年の歴史があります。団体の名称の通り、私たちは「手紙」を使った活動をするところから始まりました。どうしても、ひきこもりや在宅状態が長い人たちと接点を持つチャンネルは、電話や対面では難しい側面があります。双方が無理のない形で接点を持つにはどうしたら良いかと考え、似たような引きこもり経験のある人たちが繋がり、支え合える取り組みとして、手紙を使った『ピア・アウトリーチ』という活動を行っています。
2007年度から外出が可能になった35歳前後の当事者を対象に、居場所支援という形で、当事者グループ『SANGOの会』という自由に集まれる活動を行っています。ただコロナ禍では、緊急事態宣言等で公共施設が使えないなど制限がある中で、居場所活動を続けるのは非常に苦労が多いです。現在は「オンラインSANGOの会」「よりどころオンライン当事者会/親の会」という形で定期的に開催し、できるだけ途切れないように活動しています。オンラインが使えない方へは手紙をお送りしています。デジタルとアナログをうまく併用して、コロナ禍では活動しています。
ひきこもり親子公開対論
― 今回の助成事業について教えてください
さぽーとほっと基金の助成金は、毎年度活用しています。当事者たちは収入がほとんど無く、道外・市外へ出る機会が無いので、私たちのNPOでは、本州の当事者や、なかなか会えないような方を招いて交流できるよう、イベントを行う形で助成金を活用してきました。
今年度は前年度に引き続き、ひきこもりの背景にある「親子関係の根深さ」に焦点をあてています。問題の根幹には、親子関係があるケースが多いです。ご家族も、本人の気持ちがわからない、何を考えているのか理解出来ない。当事者も同じように、親にわかってもらえない、理解してもらえない、家庭内に居場所を作れないという形で苦しんでいる方が多いです。
そのため、親子関係に着眼した『対話修復』を図っていく事業として、「ひきこもり親子公開対論」を、8月21日(土)に開催しました。運良く会場を使うことができ、講師も東京から当事者をお呼びして、26名の参加者を得て開催することができました。
概要としては、前段、親子公開対論について講師からの説明してもらい、後半は講師が当事者役や家族役になり、ロールプレイの形で、当事者と家族のクロストークができるようなセッションを行いました。多くの気づきを得られ、真正面から親子関係を捉えた事業は、これまでになかったのではという意見もあり、参加者からは好評の声を得られました。本当はもっと多くの参加者と、本格的な親子対論のディスカッションができればよかったのですが、やはり三密を回避できるよう、様々な配慮が必要になったために定員は少なくなりましたが、なんとか開催することができました。
やはり家族の方が、参加者の前で自分の悩みを赤裸々に語るということで、人選は難航しましたが、実際対論を行っていく中で、自身の体験を語りだす方も居ました。ファシリテーターを担った当事者講師の配慮や進行に助けられたということもあったと思います。
親子公開対論そのものは、今回来ていただいた講師が、関東を中心として幅広くやっていて、ノウハウを持った方でした。北海道でも親子関係に悩んでいる方が非常に多いので、開いてみる必要性があると考え依頼したところ、快く引き受けてくれました。本当に渦中にいる親子が来て対論するのではなく、あらかじめ人選した当事者と家族が1名ずつ登壇して、相手役は講師が担うという形で行いました。日頃思っていることを、当事者や家族が話し、それぞれがどんな風に思っていたのか、自分を映し出す鏡のような機会になります。
関東では、東京や千葉、首都圏といった開催していると伺っていて、今まで気づかなかったことに気付かされるという声が多いようです。今回の参加者は、当事者とご家族が中心で、支援者はお一人だけ参加されていました。コロナ禍の影響もあって、医療・福祉に携わる支援者の方々は参加を控えられたのではないでしょうか。今後の開催については、少し形を変えるなど工夫をして、家族会の運営の中での実施を考えています。
ひとつひとつ見ていくと、細かな影響がたくさん
― コロナ禍において、活動やひきこもりの方たちへの影響はいかがでしょうか?
まず居場所活動に影響が出ました。会場が使えないため、オンラインに切り替えて実施をしてきました。コロナ禍以前は、和室を使ったり、飲み物やお菓子を出したりしていましたが、それもまったくできなくなりましたね。また、わたしたちの活動は誰が来ても、いつ来て帰っても良い、事前予約も不要にして、敷居をものすごく低くしていました。名簿も一切取っていなかったため、ぱったりと来れなくなってしまい、音信不通になってしまった当事者や家族がかなりいる状況です。連絡のしようがなく、電話番号もどこに住んでいるのかもわからないため、これがいちばんの気がかりです。
ひきこもり、元々在宅生活を長期に渡って行っている方が多いので、本人にとっては生活様式が大きく変わったということは無いですが、自分だけでなく家族みんながステイホームになったことで、家族関係がうまく行っていない家庭では、ちょっとしたことで口論や対立が起きてしまい、家庭内の居場所が持てない、無くなってしまうという当事者が出てきていることも大きな課題です。
イベントなどで用事や居場所があるから外出していた当事者も多かったですし、図書館などの施設も閉鎖になり、行き場所が無くなって、夜眠れなくなるなど、日常の生活に細かな影響が出てきている人もいます。
また、元気になってアルバイトを始める方も多かったですが、強迫神経症の方などは、「自分が感染するんじゃないか」という恐怖から『コロナ恐怖症』になってしまい、アルバイトをやめざるを得なかったり、完全に連絡が取れなくなってしまったり、ひきこもりに逆戻りしてしまう人も出てきています。このように、ひとつひとつ見ていくと、細かなコロナ禍における影響がたくさん出てきていることを感じます。
― オンラインでの活動について教えて下さい。
オンラインの居場所へは、以前から活動に参加していてインターネット環境のある人がメインになっています。そういう方々は繋がっていますが、利用できない方も多いです。特に50~60代の中高年層はネット環境が無い方も多く、これまで紙媒体の広報物を見て参加していた方たちについては、完全にお手上げなんですよね。連絡先がわからないため、お知らせができず、完全に途切れてしまっています。
オンラインで参加されている方たちの間でも、実際に会いたいね、という声は最近顕著になってきています。あらゆるものがオンラインになってしまって、やはりオンラインは疲れる、実際に会うことの良さが、オンラインが長期化される中で、再認識されている気がします。
そのような中ですが、会場の問題は、どうしようもない課題ですよね。私たちの活動は、札幌市からの委託事業で行っているので、自分たちで会場を確保できたとしても、行政の指示に従わずに対面で実施するのは難しいです。緊急事態宣言中はもちろん、まん延防止措置期間もすべて解除されない限り、いかなる方法をとっても対面での開催は難しいです。
手紙は、むしろニーズがあって、コンスタントに相談が来ています。メール相談もコロナ以前より2倍ぐらいに増えています。逆に、電話相談の割合は少なくなっています。家族に話が聞こえてしまうので、電話は掛けづらいのかもしれないですね。オンラインであっても自宅で行うと、イヤホンをしていても、自分の声はどうしても家族に聞こえてしまいます。場合によっては、家族が部屋に入ってきて、映像に写ってしまう可能性もあるので、ビデオオフにして参加しなければならないなど、オンラインも難しい方がいらっしゃいます。
相談内容の変化としては、1番は体調不良、健康面での不安という相談が増えました。2番めは収入面です。アルバイト収入が減ってしまうなど、コロナが長期化することによって、世帯そのものの収入が減り、お金の不安についての声が多くなっています。
ピアスタッフは専門職
― 運営上の課題はありますか?
現在、収入の中心は委託事業と助成金です。寄付金は、認定NPO法人格を取得するまでには至らない程度です。ひきこもりの当事者は、お金を持っていない人が多く、私たちはそういう人達からお金を取るということは基本的にはしていません。NPO法人は会員制で会費収入もありますが、会費を払えない人の方が圧倒的に多いです。会員でなければ利用できないというような差別化はせず、誰でも参加できる形にしています。そのため、参加者に対して会員は少なく40名ほど、寄付金収入は年間25~30万円弱という、弱小団体なんです。
団体の運営に関しては、得手不得手があると思いますが、NPOは結構細かな事務処理がありますよね。当事者団体は、得てして事務処理が苦手なところが多いのかなと思います。当事者団体を運営していくにあたっての事務処理課題をどうクリアしていくか、中長期的な展望として課題感があります。当事者ではない者が担った方が良いのかどうかも含めて検討してくことも大事ですね。北海道NPOサポートセンターで、当事者団体における事務処理の研修なんてどうでしょうか?そういうのを企画していただけたら、参加したいという当事者もいるのではないかなと思います。
― 今後の活動についてお聞かせください
私たちは当事者団体なので、過去に不登校やひきこもりの経験があり、運営を担っている人たちは、ピアスタッフという形で活動しています。できるだけ当事者のニーズにあった事業を展開していくことが何よりも大事です。また当事者であっても、ずっとボランティアで活動に携わり続けることは、非常に辛いです。ピアスタッフへは実働に対する正当な対価としてのお金がまわっていく、そのことが社会に戻っていくことにも繋がります。NPOとしても、ひきこもりの循環型共生社会を実現できるように、働きかけや事業展開をしていくことが大事だと思っています。現在は、委託事業で居場所活動などを行っていますが、できるだけピアスタッフへは、実働に見合うお金が渡せるようにしたいと考えています。現状ではまだ難しいですが、生活が少し安定できるぐらいの形にしたいと思っています。
どうもNPOはお金を稼いではいけない、ボランティアじゃないと、という意識やイメージが強いですよね。まわりのひとも、当事者なんだからボランティアでいいんじゃない、という見方がまったく無いというわけではないです。ピアスタッフは専門職であって、重要な役割を果たしていますし、ひきこもり体験をもっているピアスタッフによる支援が良いという声も、実際に利用している方から聞こえてきます。彼らを専門職と同格としてみて、それに見合うお金が循環する形にしてもらいたいなと思っています。
インタビューを振り返って
「決して押しつけないが静かに返信を待つ」一種独特な、手紙を使ったピア・アウトリーチの手法は、当事者の状況を理解に基づくものだと感じました。20年以上の歴史がありながら、コロナ禍への対応や今回の助成事業のように親子公開対論のような新しい手法を導入するなど、時代に合わせた活動を続けてらっしゃることにも学ぶべきことが多いと思いました。(高山)
インタビュアー
高山大祐(たかやまだいすけ)
北海道NPOファンド
※インタビューは、2021年9月9日に行いました。
記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局