団体からのお知らせ・インタビュー
[座談会企画]道内地域におけるフードバンク活動のいま(1)
国内では2000年頃から、食品の製造や加工の過程で発生する規格外品等を引き取り、福祉施設等へ無料で提供する「フードバンク」と呼ばれる活動が広がりました。まだ食べられるにも関わらず、食品が廃棄されてしまう、いわゆる「食品ロス」削減の観点から、国では農林水産省が中心となって活動を支援しています。新型コロナウイルス感染拡大の長期化により、生活困窮者に向けた有効な支援策としても期待されています。
前身である北海道内中間支援組織「コロナアクション」として開始した座談会も、今回で3回目となりました。第3回座談会では、地域でフードバンク活動を展開している道内の3つの団体に、オンラインでお集まりいただきました。取り組みを始めたきっかけや具体的な活動の内容、いま抱えている課題やこれからの展望についてお話をうかがい、中間支援ネットワークとして活動の実態を学ぶとともに、課題を解決できるよう、活動団体同士や関係機関との連携・協働を考えます。
※この企画は2022年2月26日に開催しました。2回に渡って記事を掲載します。
右写真:スピーカーの皆さん
(上左から、中森さん、河津さん。下左から、根本さん、井上さん)
スピーカーの皆さん
◆フードバンク千歳 すまいるはーと(千歳市)
代表 根本幸枝(ねもとゆきえ)さん、副代表 河津佳澄(かわづかすみ)さん
◆NPO法人ピーシーズ(フードバンク旭川)(旭川市)
理事長 井上俊一(いのうえしゅんいち)さん
◆フードバンク道南協議会(函館市)
事務局長 中森 司(なかもりつかさ)さん
◆主催:北海道中間支援ネットワーク
・座談会進行:竹田剛憲(北海道立市民活動促進センター)
丸藤 競(函館市地域交流まちづくりセンター)
・記録:溝渕清彦(環境省北海道環境パートナーシップオフィス)
ひとり親世帯のフードパントリー事業「0円スマイルマルシェ千歳」
― フードバンク千歳 すまいるはーとの活動について教えて下さい
根本:私は千歳生まれの千歳育ちで、普段は幼稚園教諭をしています。千歳駅前で、人と人が本を通じてつながる「まちライブラリー@ちとせ」のスタッフとしてもつとめており、1月に再開しました。本日は副代表の河津佳澄さんと参加します。よろしくお願いします。
私は2年前に「フードバンクネットワーク もったいないわ・千歳」の活動に参加して、2020年4月から2021年9月まで理事を務めました。「もったいないわ・千歳」は2010年8月に市民活動団体として設立され、2020年にNPO法人になりました。企業の期限切れの食品や農家の規格外の野菜を破棄するのはもったいない、福祉団体や生活困窮者に有効に活用してもらおうということで発足した団体です。
ボランティア活動をする中で、私たちは特にひとり親世帯のフードパントリー事業(何らかの理由で十分な食事を取ることができない状況の人々に食品を無料で提供する支援活動)に取り組みたいと考え、2021年10月に賛同したメンバーで「0円スマイルマルシェ千歳」を開始しました。
今後も必要とする方に長く支援をしていきたいと考え、2021年12月に市民団体「フードバンク千歳 すまいるはーと」を立ち上げ、千歳市に登録しました。いまは正会員7名と、学生ボランティア3名で活動しています。
「0円スマイルマルシェ千歳」を始めたのは、それまでの活動の中で、支援を受ける方たちからマイナスな言葉ばかりが耳に入ってきたからです。例えば「申し訳ない」や「恥ずかしい」、「こういうものをいただいているのを見られて、子どもがいじめられたら困る」とか「私たちより困っている人がいるのではないか」というような言葉です。そんな気持ちにさせることなく、必要としている人に、必要としているものを支援して、少しでも笑顔になってもらいたい。みんなで助け合い、地域社会で子どもたちの成長を見守ることができればいい。そういう思いで開催したのが「0円スマイルマルシェ千歳」です。
また私は、絵本を通じて人を笑顔にすることや、人をつないで交流できる安全な場所づくりをしたいと考えていました。職業柄、絵本が大好きで何百冊も手元にあるので、「もったいないわ・千歳」さんの事務所を借りて、個人で「えほんらいぶらりー千歳」をオープンしました。全国のまちライブラリーと連携し、親子の交流の場づくりなど、絵本を通じた支援をしています。
1回目の「0円スマイルマルシェ千歳」は、商店街振興組合の場所を借りて実施しました。たくさんの企業や個人の方から、食品や生活必需品が集まりました。養鶏農家のモチツモタレツ(長沼町)さんから卵を、八森ファーム(栗山町)さんからはお米をいただきました。告知には北海道新聞や地元情報誌が協力してくださり、自分たちでもチラシをつくってSNSで情報発信を行いました。
1回目はシングルマザーへの無料配布ということで、千歳市内の50世帯を支援しました。頑張っている地元の企業や団体を応援したい気持ちもあり、協力いただいた商品を並べて親子で選んでもらう方式にしました。また「食品ロス」のことも考えてほしいと思い、参加した方には必要なものだけを持っていっていただくようにしました。親子で「これは必要だ」「これは家にあるからいらない」というように話し合って、最低限、必要なものを選んでもらいました。
「0円スマイルマルシェ千歳」には、たくさんの方から賛同、支援をいただき、必要とされる活動だということを、あらためて感じました。その後はシングルマザーに限らず、ひとり親世帯を対象に取り組み、10月から最近まで月に1回開催しています。
シングルマザーには、なかなか自分の時間を持つことができない、相談できる人がいないという悩みがあります。いまでも申し訳なさそうに来場される方もいます。食品の配布だけではなく、お弁当の配布や子ども食堂を開くなど、気軽に、安心・安全に参加できる「第三の場所」をつくり、恥ずかしいという気持ちや、子どものいじめが起きないよう、地域社会で子どもたちの成長を見守ることができればと思います。そうした社会づくりに向けて、今後もスタッフで取り組んでいきますので、ぜひ応援をお願いします。
継続性のあるフードバンクのしくみを
― ピーシーズ(フードバンク旭川)の活動について教えて下さい
井上:旭川でフードバンクに取り組んでいます。私どもはフードバンク事業を、どのように切れ目なく、継続して活動できるかを最初に考えて事業を設計しました。無料でいただいたものを無料で配るので、そこに利益は出ませんよね。活動の継続性を考えたときに、かなり困難だろうと思いました。
実は最初は「フードバンク」という言葉を知りませんでした。「食品の再分配活動」という表現で、銀行から融資を受ける際、担当者から「それはフードバンク活動ではないですか?」と助言がありました。「いろんな方から善意でいただいた食品を、困窮されている方に活用する事業ですよ」と教えてもらい、「フードバンク」という言葉を使うことにしました。
私はもともと障害者の就労支援事業、就労継続支援と就労移行支援に取り組んでいる社会福祉法人の職員でした。その時に、まだ食べられるのに捨てられる余剰食品が、世の中にはいろんなパターンで存在するということを知りました。一方で、生活困窮者の方たちに、食品が十分に行き渡っていないという現状を目の当たりにして、その中継ぎができないかと考えました。
ただし、それは継続性がない、一過性のものだとよくないなと。それで考えたのが、フードバンクに関わる作業自体を、障害者の就労支援として取り組む方法です。普段、支援を受ける側のメンバーたちが、寄付された食品を、消費期限別に棚に並び替えたり、あるいは支援者が来たら、世帯毎に食品を何日分、例えば運動部の活動をしている子どもさんもいるよということであればたくさん食べますので、そうした家族の構成によって、食品をまとめて、お渡ししたりします。こういった作業を就労支援事業として取り組むことによって、ベースとなる受け皿が安定して運営できるのではないか、と考えました。
フードバンク事業を開始したのは2016年です。このころは非常に微妙な時期で、あるファストフードチェーンの食品消費期限偽装が取りざたされました。道内では、食品加工卸売会社が廃棄冷凍コロッケを買い取って出荷する大事件もありました。ですから、企業をまわって食品の提供のお願いをしても「横流しされたら、どうもならんよな」という反応をばんばん受けた時代でした。もちろんその一方で、活動を理解してくださり、「余剰が出たときに提供するよ」という企業もありました。
ただ企業からだけでは、必要とする食品が集まりにくいという課題があるので、市民参加型の取り組みも強化することにしました。たまたま事務所の近くに一軒、銭湯がありまして、相談に行きました。すると当時、旭川では二十数軒の銭湯が加盟していた「旭川浴場組合」を紹介いただいたんですね。銭湯は昔ほどではありませんが、地域ごとの社交場としての役割があります。そこで、フードバンクの取り組みに協力していただけないか、銭湯に来た人が自宅にある余剰食品を持ってきてもらえるよう、食品の回収ボックスを置かせてほしいと、組合長さんに相談すると「おもしろいね、やってみようか」と話に乗ってくれました。5軒ほどが参加してくださり、ボックスがいっぱいになると銭湯から連絡を受け、回収に行く取り組みがスタートしました。
最近では2週間に1回、回収しています。もちろんその前に満杯になれば、就労支援の作業の一環として回収に向かいます。就労支援のメンバーたちも、支援をする側にまわるという体験をリアルにできます。こうした活動を実施して、はや5年が経ち、今年6年目に突入しています。
強みを活かし市内4団体での連携
― フードバンク道南協議会の活動について教えて下さい
中森:私たちは2018年2月に活動を始めました。一般財団法人北海道国際交流センター(HIF)と一般財団法人函館YMCA、NPO法人ワーカーズコープ茜(あかね)、北海道高齢者協同組合(高齢協)道南地域センター「茜」という、函館市内4団体で協議会を構成しています。ワーカーズコープ茜は、生活困窮者の自立支援の事業を市から受託しています。高齢協は、高齢者のサークル活動を支援しています。また、動けない方のお宅の除草、除雪等のお手伝いをするなどの事業を行っています。私はNPO法人ワーカーズコープ茜と、高齢協道南地域センターの代表をしつつ、フードバンク道南協議会の事務局長をしています。函館市社会福祉協議会には後援をお願いしています。
最初は2018年4月くらいから、食品を入れる箱を置いてもらえないかと相談しに、町内会を20か所ほどまわりました。なかなかうまく協力を得られませんでしたが、現在4つほど、町内会館に箱を置かせてもらっています。箱に入れていただいた食品を取りに行くというところから活動を始めました。
最初はなかなかものが集まらない中で、主に子ども食堂や児童養護施設など、子どもを支援することから活動を始めました。現在は生活困窮者からのニーズが多くなりましたので、そちらの方に支援の重点を移しています。
活動を開始して1年目は、食品は1トンも集まらない状況でした。地道に活動を続け新聞にも掲載され、市民や企業からも協力をいただけるようになりました。今年度は例えば、北教組渡島支部さんからお米10万円分、函館白百合学園高校福祉局さんからもお米10万円分、北海道太平洋生コン(函館市)さんから約1.7トンのお米をいただいています。先日は北海道行政書士会函館支部さんから700kg(昨年に続いて2回目)のお米、函館法人会さんからも約1.65トンのお米と缶詰、麺類、牛乳をいただいたりして、多くの団体に集まったものを提供しています。ときどき、函館市漁業協同組合青年部長からは取れたての魚を、函館市亀田農協さんからは新鮮な野菜をいただいています。週3回美味しいパンも提供してもらっています。
私たちは、いただいたものを各家庭に届けるのではなく、函館にはたくさんの支援団体があるので、そういった団体と提携して、食品などをお渡ししています。提供先には、前述した子ども食堂などがあります。いまコロナ禍で、子ども食堂ではほぼテイクアウトになっています。それから児童養護施設2か所、ウィメンズネット函館、更生保護施設2団体、青少年の自立支援2団体、フードパントリー1団体、函館市や北斗市、七飯町で母子家庭を支援している各団体とも提携しています。この他、道南在住の技能実習生約50人を支援している湯川カトリック教会に物資を提供しています。
函館市生活支援課や函館市社会福祉協議会から、生活保護を支給したいが、お金が出るまで2週間程かかるので、その間の食品をなんとかできないかという相談も時にあり、こちらから担当者に食品をお渡しすることもあります。
活動に対する地域の理解と連携
ー 団体によって、対象の軸がシングルマザーであったり、就労支援事業と接続したり、技能実習生の支援も行っていたりと、それぞれの特徴があると感じました。井上さんにおうかがいしたいのですが、旭川では銭湯にボックスを置いていただいたとのこと。浴場組合の協力はどのように得たのでしょうか。
井上:事務所の近所の銭湯の方から、エリアの組合長と調整することが重要だと助言いただきました。そこで組合長とは「いま銭湯の利用者がどんどん減っているが、このように工夫をして人を集めている」という話や「昔は近くの農家の母さんが漬物を持ってきてお風呂上りにみんなで食べたり、情報交換したりするというような役割があった」という話をしていく中で、「ぜひ協力しましょう」と言っていただけました。ただ、小規模の銭湯では「ボックスを置くスペースがないよ」というところもありますので、比較的大きい銭湯が手を挙げてくれました。
月に1回、浴場組合の会合があって、その場でプレゼンして、皆さんにご理解いただきました。実は組合長さんがある程度、大きな銭湯には根回しをしてくれていたそうです。そうして活動開始当時は5か所、いまは残念ながら1か所が廃業され4か所になりましたが、ご協力をいただいています。
ー 千歳では、商店街振興組合連合会の場所を借りて実施されたとのことですね。こちらはどのように協力いただいて、どのような成果がありましたか。
根本:私たちの活動を理解してくださったニューサンロード商店街振興組合の方が、会場を貸してくださいました。資金のない団体ですので、安価にお貸しいただけたのでは大変ありがたいです。また、その方が商店街振興組合の会長さんや周りのお店の方、町内会の方もご紹介くださいました。そのおかげで人の輪が広がり、いろいろなご支援をいただきました。
シングルマザーは若い方が多いです、マルシェをきっかけに商店街に足を運び、お店を知り、商店街とつながりができたのはよかったです。ただ、空き店舗も多い通りですので、マルシェの後に、立ち寄るところがあまりないというのが現状です。
― 函館は4団体で協議会を設立していますが、連携はスムーズでしたか。また、町内会との連携の難しさについて、ぜひ詳しく教えてください。
中森:HIFは「生活就労サポートセンターひやま」(江差町)を運営しているなど、構成団体それぞれが困窮者支援、子ども支援に携わっており、顔見知りでもあったので、呼びかけにすぐに応じてもらえました。
最初は町内会をまわって、「子ども食堂や児童養護施設を支援したいので、食品を入れていただく箱を置かせてください」とお話ししました。ただ、子ども食堂に対する理解は、いまよりははるかに低く、「子どもたちがみんな困っているわけではないでしょう」と言われたこともありました。
確かに、昔のようにツギハギの服を着ているわけではないので、見た目では分かりませんよね。でも本当は、困っているかもしれません。それにいまは孤食の問題もあるので、みんなで楽しく食べる体験を味わってもらえる子ども食堂の取り組みは、非常に大事です。しかし当時は、そうした理解がいまほどはありませんでした。今年になって七飯町大沼で子ども食堂ができましたし、江差町でも動きがあるようです。全国では約6,000か所、子ども食堂があるとされており、さらに増えているようなので、それだけ理解も深まってきていると思います。
ー(2)に続きます。
北海道中間支援ネットワークって?
今日の座談会を主催する「北海道中間支援ネットワーク」の前身は、コロナ禍への対応を考えて生まれた道内の中間支援センターの連携団体「コロナアクション」です。「コロナアクション」では道内の中間支援センターが定期的に集まって、新型コロナウイルス感染症の地域への影響や支援の状況などを共有し、対応策を考えたり、市民活動団体を対象としたアンケート調査を実施して、道庁に対して調査結果を踏まえた要望などを行ってきました。
コロナ禍がもたらした地域社会の混乱はまだまだ収まっていませんが、「コロナアクション」の取り組みを発展させて、全国の中間支援センターとも情報共有を行い、道内で普段から学び合えるような活動ができればと、昨年度「北海道中間支援ネットワーク」を設立しました。市民活動を支えるプラットフォームとして、全道的に力をあわせて取り組んでいきたいと考えています。
記事作成
溝渕清彦(みぞぶちきよひこ)
環境省北海道環境パートナーシップオフィス(EPO北海道)