団体からのお知らせ・インタビュー

2022 / 02 / 07  13:23

[インタビュー]ひきこもりの循環型共生社会を実現できるように~レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中さん

[インタビュー]ひきこもりの循環型共生社会を実現できるように~レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク 田中さん

NPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワーク
長期在宅ひきこもり世帯の家族関係対話修復事業
(令和3年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 ひまわりピアサポート基金助成事業)

 

ひきこもりの長期化に伴う高齢化という問題の背景には、親子の対話が無い、意見のすれ違いからの対立など、家族関係の問題があるという指摘があります。
1999年の発足以来、外出が難しく、一般就労が困難なひきこもり者とその家族等に対し、手紙・メールによる相談や、出張相談などを行っているNPO法人レター・ポスト・フレンド相談ネットワークを取材しました。

今回は、理事長田中敦たなかあつし)さんに、オンラインでお話を伺いました。

 

 

btn_01project2.gif『ピア・アウトリーチ』という活動

― まず、レター・ポスト・フレンド相談ネットワークの活動について教えてください

1999年9月1日に発足し、2010年3月にNPO法人化しました。22年の歴史があります。団体の名称の通り、私たちは「手紙」を使った活動をするところから始まりました。どうしても、ひきこもりや在宅状態が長い人たちと接点を持つチャンネルは、電話や対面では難しい側面があります。双方が無理のない形で接点を持つにはどうしたら良いかと考え、似たような引きこもり経験のある人たちが繋がり、支え合える取り組みとして、手紙を使った『ピア・アウトリーチ』という活動を行っています。

2007年度から外出が可能になった35歳前後の当事者を対象に、居場所支援という形で、当事者グループ『SANGOの会』という自由に集まれる活動を行っています。ただコロナ禍では、緊急事態宣言等で公共施設が使えないなど制限がある中で、居場所活動を続けるのは非常に苦労が多いです。現在は「オンラインSANGOの会」「よりどころオンライン当事者会/親の会」という形で定期的に開催し、できるだけ途切れないように活動しています。オンラインが使えない方へは手紙をお送りしています。デジタルとアナログをうまく併用して、コロナ禍では活動しています。

 

 

 btn_01project2.gifひきこもり親子公開対論

― 今回の助成事業について教えてください

さぽーとほっと基金の助成金は、毎年度活用しています。当事者たちは収入がほとんど無く、道外・市外へ出る機会が無いので、私たちのNPOでは、本州の当事者や、なかなか会えないような方を招いて交流できるよう、イベントを行う形で助成金を活用してきました。

今年度は前年度に引き続き、ひきこもりの背景にある「親子関係の根深さ」に焦点をあてています。問題の根幹には、親子関係があるケースが多いです。ご家族も、本人の気持ちがわからない、何を考えているのか理解出来ない。当事者も同じように、親にわかってもらえない、理解してもらえない、家庭内に居場所を作れないという形で苦しんでいる方が多いです。

そのため、親子関係に着眼した『対話修復』を図っていく事業として、「ひきこもり親子公開対論」を、8月21日(土)に開催しました。運良く会場を使うことができ、講師も東京から当事者をお呼びして、26名の参加者を得て開催することができました。

概要としては、前段、親子公開対論について講師からの説明してもらい、後半は講師が当事者役や家族役になり、ロールプレイの形で、当事者と家族のクロストークができるようなセッションを行いました。多くの気づきを得られ、真正面から親子関係を捉えた事業は、これまでになかったのではという意見もあり、参加者からは好評の声を得られました。本当はもっと多くの参加者と、本格的な親子対論のディスカッションができればよかったのですが、やはり三密を回避できるよう、様々な配慮が必要になったために定員は少なくなりましたが、なんとか開催することができました。

やはり家族の方が、参加者の前で自分の悩みを赤裸々に語るということで、人選は難航しましたが、実際対論を行っていく中で、自身の体験を語りだす方も居ました。ファシリテーターを担った当事者講師の配慮や進行に助けられたということもあったと思います。

親子公開対論そのものは、今回来ていただいた講師が、関東を中心として幅広くやっていて、ノウハウを持った方でした。北海道でも親子関係に悩んでいる方が非常に多いので、開いてみる必要性があると考え依頼したところ、快く引き受けてくれました。本当に渦中にいる親子が来て対論するのではなく、あらかじめ人選した当事者と家族が1名ずつ登壇して、相手役は講師が担うという形で行いました。日頃思っていることを、当事者や家族が話し、それぞれがどんな風に思っていたのか、自分を映し出す鏡のような機会になります。

関東では、東京や千葉、首都圏といった開催していると伺っていて、今まで気づかなかったことに気付かされるという声が多いようです。今回の参加者は、当事者とご家族が中心で、支援者はお一人だけ参加されていました。コロナ禍の影響もあって、医療・福祉に携わる支援者の方々は参加を控えられたのではないでしょうか。今後の開催については、少し形を変えるなど工夫をして、家族会の運営の中での実施を考えています。

 

btn_01project2.gifひとつひとつ見ていくと、細かな影響がたくさん

― コロナ禍において、活動やひきこもりの方たちへの影響はいかがでしょうか?

まず居場所活動に影響が出ました。会場が使えないため、オンラインに切り替えて実施をしてきました。コロナ禍以前は、和室を使ったり、飲み物やお菓子を出したりしていましたが、それもまったくできなくなりましたね。また、わたしたちの活動は誰が来ても、いつ来て帰っても良い、事前予約も不要にして、敷居をものすごく低くしていました。名簿も一切取っていなかったため、ぱったりと来れなくなってしまい、音信不通になってしまった当事者や家族がかなりいる状況です。連絡のしようがなく、電話番号もどこに住んでいるのかもわからないため、これがいちばんの気がかりです。

ひきこもり、元々在宅生活を長期に渡って行っている方が多いので、本人にとっては生活様式が大きく変わったということは無いですが、自分だけでなく家族みんながステイホームになったことで、家族関係がうまく行っていない家庭では、ちょっとしたことで口論や対立が起きてしまい、家庭内の居場所が持てない、無くなってしまうという当事者が出てきていることも大きな課題です。

イベントなどで用事や居場所があるから外出していた当事者も多かったですし、図書館などの施設も閉鎖になり、行き場所が無くなって、夜眠れなくなるなど、日常の生活に細かな影響が出てきている人もいます。

また、元気になってアルバイトを始める方も多かったですが、強迫神経症の方などは、「自分が感染するんじゃないか」という恐怖から『コロナ恐怖症』になってしまい、アルバイトをやめざるを得なかったり、完全に連絡が取れなくなってしまったり、ひきこもりに逆戻りしてしまう人も出てきています。このように、ひとつひとつ見ていくと、細かなコロナ禍における影響がたくさん出てきていることを感じます。

― オンラインでの活動について教えて下さい。

オンラインの居場所へは、以前から活動に参加していてインターネット環境のある人がメインになっています。そういう方々は繋がっていますが、利用できない方も多いです。特に50~60代の中高年層はネット環境が無い方も多く、これまで紙媒体の広報物を見て参加していた方たちについては、完全にお手上げなんですよね。連絡先がわからないため、お知らせができず、完全に途切れてしまっています。

オンラインで参加されている方たちの間でも、実際に会いたいね、という声は最近顕著になってきています。あらゆるものがオンラインになってしまって、やはりオンラインは疲れる、実際に会うことの良さが、オンラインが長期化される中で、再認識されている気がします。

そのような中ですが、会場の問題は、どうしようもない課題ですよね。私たちの活動は、札幌市からの委託事業で行っているので、自分たちで会場を確保できたとしても、行政の指示に従わずに対面で実施するのは難しいです。緊急事態宣言中はもちろん、まん延防止措置期間もすべて解除されない限り、いかなる方法をとっても対面での開催は難しいです。

手紙は、むしろニーズがあって、コンスタントに相談が来ています。メール相談もコロナ以前より2倍ぐらいに増えています。逆に、電話相談の割合は少なくなっています。家族に話が聞こえてしまうので、電話は掛けづらいのかもしれないですね。オンラインであっても自宅で行うと、イヤホンをしていても、自分の声はどうしても家族に聞こえてしまいます。場合によっては、家族が部屋に入ってきて、映像に写ってしまう可能性もあるので、ビデオオフにして参加しなければならないなど、オンラインも難しい方がいらっしゃいます。

相談内容の変化としては、1番は体調不良、健康面での不安という相談が増えました。2番めは収入面です。アルバイト収入が減ってしまうなど、コロナが長期化することによって、世帯そのものの収入が減り、お金の不安についての声が多くなっています。

 

btn_01project2.gifピアスタッフは専門職

― 運営上の課題はありますか?

現在、収入の中心は委託事業と助成金です。寄付金は、認定NPO法人格を取得するまでには至らない程度です。ひきこもりの当事者は、お金を持っていない人が多く、私たちはそういう人達からお金を取るということは基本的にはしていません。NPO法人は会員制で会費収入もありますが、会費を払えない人の方が圧倒的に多いです。会員でなければ利用できないというような差別化はせず、誰でも参加できる形にしています。そのため、参加者に対して会員は少なく40名ほど、寄付金収入は年間25~30万円弱という、弱小団体なんです。

団体の運営に関しては、得手不得手があると思いますが、NPOは結構細かな事務処理がありますよね。当事者団体は、得てして事務処理が苦手なところが多いのかなと思います。当事者団体を運営していくにあたっての事務処理課題をどうクリアしていくか、中長期的な展望として課題感があります。当事者ではない者が担った方が良いのかどうかも含めて検討してくことも大事ですね。北海道NPOサポートセンターで、当事者団体における事務処理の研修なんてどうでしょうか?そういうのを企画していただけたら、参加したいという当事者もいるのではないかなと思います。

― 今後の活動についてお聞かせください

私たちは当事者団体なので、過去に不登校やひきこもりの経験があり、運営を担っている人たちは、ピアスタッフという形で活動しています。できるだけ当事者のニーズにあった事業を展開していくことが何よりも大事です。また当事者であっても、ずっとボランティアで活動に携わり続けることは、非常に辛いです。ピアスタッフへは実働に対する正当な対価としてのお金がまわっていく、そのことが社会に戻っていくことにも繋がります。NPOとしても、ひきこもりの循環型共生社会を実現できるように、働きかけや事業展開をしていくことが大事だと思っています。現在は、委託事業で居場所活動などを行っていますが、できるだけピアスタッフへは、実働に見合うお金が渡せるようにしたいと考えています。現状ではまだ難しいですが、生活が少し安定できるぐらいの形にしたいと思っています。

どうもNPOはお金を稼いではいけない、ボランティアじゃないと、という意識やイメージが強いですよね。まわりのひとも、当事者なんだからボランティアでいいんじゃない、という見方がまったく無いというわけではないです。ピアスタッフは専門職であって、重要な役割を果たしていますし、ひきこもり体験をもっているピアスタッフによる支援が良いという声も、実際に利用している方から聞こえてきます。彼らを専門職と同格としてみて、それに見合うお金が循環する形にしてもらいたいなと思っています。

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インタビューを振り返って

 「決して押しつけないが静かに返信を待つ」一種独特な、手紙を使ったピア・アウトリーチの手法は、当事者の状況を理解に基づくものだと感じました。20年以上の歴史がありながら、コロナ禍への対応や今回の助成事業のように親子公開対論のような新しい手法を導入するなど、時代に合わせた活動を続けてらっしゃることにも学ぶべきことが多いと思いました。(高山)

 

インタビュアー 
高山大祐(たかやまだいすけ)
北海道NPOファンド
※インタビューは、2021年9月9日に行いました。

 

記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局

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