団体からのお知らせ・インタビュー
[インタビュー]森を介して、いろんな人と交われる場に~みなぱ 中村さん・菅原さん
特定非営利活動法人みなぱ
子どもの集う場から広がる地域の人の居場所
(令和3年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 子どもの健全育成分野助成事業)
新型コロナウイルス拡大の影響により、居場所を奪われ、ストレスフルな環境に身を置いている子どもたちが、自宅や学校以外に息抜きができる「サード・プレイス」としての居場所づくりに取り組む特定非営利活動法人みなぱを取材しました。
2008年に設立されたみなぱは、子どもからお年寄り、障害者まで地域共生をテーマに、相談支援事業や、障害児通所支援事業(放課後等デイサービス等)などの事業を展開しています。今回は『みんなの居場所』として昨年、札幌市中央区盤渓に立ち上げた「みなぱの森 森学舎」を訪問して、理事長の中村絵梨子(なかむらえりこ)さん、事業担当者の菅原禎子(すがわらていこ)さんにお話を伺いました。
新たな社会資源をつくる
― まず、みなぱの活動について教えててください
(中村さん)
もともとは、『富山型福祉』をめざして、高齢者福祉から始まった団体でした。けれど、福祉の制度はコロコロ変わる、方針も変わる。そのたびに制度の仕組みに合わせた形に動いていくのには、私たちのような小さい法人では限界が見えました。へルパーさんの不足や、市内にサービス付き高齢者住宅が増える中、在宅中心のヘルパーステーションでは立ち行かないのが現状です。スタッフの中に、障害者のサービスをやりたいスタッフが多かったこともあり、現在は障害児・者へのサービス事業が中心になっています。
「みなぱの森 森学舎(しんがくしゃ)」は、昨年(2020年)6月にオープンしました。(同年)3月までは「森学舎」という認可外保育施設だった敷地と園舎です。市街地から車で15分ほどの場所ですが、自然に恵まれています。
相談事業を始めたら、『居場所を作れない』という不登校の相談がとても多かったんです。放課後等デイサービスを利用することもできるけれど、利用できる時間の枠が短く、柔軟な運用は難しいです。不登校の子どもたちの状況や、スタッフの実体験などから、次は不登校をテーマにデイサービスを作ろうと考え、菅原さんに声をかけました。
(菅原さん)
毎日通える拠点ができる!と、すぐにお返事しました。
自分たちが「楽しい」と思えることはとても大事と、理事長の中村さん。
― 「不登校の子どものための居場所あれとぽ」とは?
(菅原さん)
あれとぽの活動は、学校に行かない子どものお母さんたちの自主活動として、2014年から始めました。「面白いことをしよう」と週2回程度集まり、子どもたちと工作や海に行くなどの企画を少額の助成金を受けながら活動を続けていたところ、みなぱから声を掛けられて2019年1月からみなぱの一事業として活動することになりました。スタッフみんな、自然の中で子どもが育つ良さや、大人にとっても必要不可欠なものだということが実感としてあり、拠点が住宅街の中にあったので、次は森が欲しいな(笑)と、スタッフみんながふつふつと思っていた頃でした。
みなぱという法人の事業として参画したことによって、「自分たちのため」という自主活動から、「社会の中の不登校の子どもたち」という社会課題に取り組む意識ができ、雇用も生まれました。
(中村さん)
福祉分野の事業型NPOは(福祉関連法上の)制度事業のみのところも多く、みなぱもそうだったので、「NPOじゃなくてもいいんじゃないか」と思うこともありました。
福祉の制度を色々使って事業を行っていたという経験と法人の土台があったことで、地域の中で自主性を持って活動している団体と繋がって、新たな社会資源をつくることができたと思います。不登校の子どもを抱えている親御さんはなかなか仕事ができないし、精神的にも不安定です。そういった方の雇用の創出も含めて、とても“NPOらしさ”が出たと思います。
(菅原さん)
自分たちの小さな「やりたい」を、楽しみながら企画してきたら、仕事になった!という感じです。「学校に行かない」という前向きな選択をした親御さんたちが、活動に参加したり、お手伝いをしてくれたりしています。子どもたちだけではなく、お母さんたちの居場所にもなれるようにと思っています。子どもたちにとって、お母さんたちにとって、私たちのとっての最善は何かを考えることで、楽しくできています。
(中村さん)
自分たちで選んで、判断して、行動して。自分たちでやることの責任をもって働く。みなぱは、トップダウンに向かない人たちが集まっているんじゃないかな。みんなで話し合いながら決めています。利用する人たちも「自分の場所」「自分ごと」として、いっしょに考える場になるよう、とてもこだわっています。
つながりは「いいね」の数じゃない
― 「みなぱの森 森学舎」がオープンして、1年が経ちましたね
(菅原さん)
この森は、子どもたちにとって、のびのびと過ごせる場所です。自然を相手にすることは、集中力と結束力を養うことができ、子どもたちの遊び方にも変化が見えます。この森を介して、出入りする子どもと大人、いろんな人と交われる場になってきたと感じます。
(中村さん)
元森学舎の関係者の方々も、この場所でバザーや様々な企画をしてきました。こちらの拠点を利用するにあたって、ここに愛着のある皆さんが来れるように、公開のイベントなどを企画しています。元園長の本間先生もほぼ毎日来て、森の管理をしてくれています。
(菅原さん)
今後はもっとたくさん人が、ここを居場所にしてもらいたいなと思います。これまで、子どもたちは日々の生活に追われている感じがしていましたが、コロナ禍になり「今日は何しようかな、どうしようかな」と考える時間が増えて、休校などを経て「あれ?学校ってなんだろう」と考えるきっかけになったんじゃないかと思います。日々、追われるように朝起きて、学校に行って、放課後は塾に行って……という過ごし方への疑問に、この場所は応えたのではないかと。子どもたちや大人が一緒に過ごす中で、居場所の重要性を感じて、ここで過ごす人が増えたらいいなと思います。
森の中は、子どもたちにとって様々な遊び・体験ができる場所が広がっています。
※写真提供:みなぱ
― これまでを振り返っての感想や、新たに直面した課題について教えて下さい
(菅原さん)
情報をどのように届けるか、難しいです。関心のある人には共感されるけれど、この場所に『行く』というハードルもあります。困っている人に届きにくい、情報を取りに行く力も弱っている、知ったとしても動けない、自分ごととして思えない人もいます。ここに初めて来られる方は、口コミによって知った方が多いです。そして、どうやって過ごしたらいいか分からない、自分のことを話すことが難しいという方もいらっしゃいます。話をしてもいい場所なんだと気づいてもらうことが大事と考え、月1回、お母さん方のお話し会も開催しています。悩み相談だと参加は難しいけれど、ごはん会や、春の山菜取りの企画なども合わせて、会話のきっかけを作ります。
人って、一度つながると、切れたかなと思っても機が熟して(必要だと感じた時に)またつながりますよね。ずっとSNSの投稿を眺めながら、自分の子どもの様子を見て、そろそろ一歩進めてみようかなと思って、また足を運んでくれるようになる方も。つながりは「いいね」の数じゃないですよね。
子どもが違和感を発信してくれている
― 今後の活動についてお聞かせください
(菅原さん)
とにかく継続。自主活動のときは、本当に自分たちのペースでやってきたことが、いろんな人の力を借りて、いまの形になりました。正直、福祉の制度もわからないし、自分たちの活動が社会の中でどういう位置づけなのかわからない中で、分野を超えて、みなぱと繋がれました。
(中村さん)
細くても長く続けること、ここにある(存在する)こと。ギリギリやっていけないことはないけれど、確たる財源があるわけではない。継続はNPOの課題でもありますよね。すぐにお金に繋がるわけではないという世の中の仕組みのようなところに、価値ややりがいも必要です。
子どもにとってのコロナの影響の大きさを考える必要があります。大人ももちろん大変だけれど、子どもたちが置いてけぼりになっている。でも、子どもが違和感を発信してくれているんです。それを社会の違和感としてとらえる大人がどれだけいるか。子どもの発信が大人や社会を変える力になっていると考える大人が増えて欲しいと思います。
(菅原さん)
私たちは、「子どもから学ぶ」ということを忘れてはならないですね。
インタビューは森学舎の建物の中にて。森を駆け回る子どもたちの声が時々聞こえました。
(左・中村さん、中央・菅原さん、右・インタビュアー定森)
インタビューを振り返って
豊かな自然と温かい人たちに囲まれた、とても居心地のよい場所でした。不登校を学校に「いけない」と否定的に捉えるのではなく「いかない」という子どもの選択として尊重する。そのような姿勢から、子ども一人ひとりの考えや主体性を大事にしていることが伝わり感銘を受けました。そして、コロナ感染症の影響が長引いているからこそ、子どもが発信している違和感を大人が受け止めることの大事さを教えてもらいました。(定森)
団体概要
- 団体名 特定非営利活動法人 みなぱ
- 代表者 理事長 中村絵梨子
- 主な活動場所 札幌市南区
- メールアドレス minapa@apost.plala.or.jp
- URL http://minapa.or.jp/
- 団体パンフレット⇒ ダウンロード(PDF)
- 関連ページ(2020年度助成事業)
インタビュアー
定森光(さだもりひかる)
北海道NPOサポートセンター
※インタビューは、2021年7月2日に行いました。
見出しの写真は、みなぱより提供いただきました。
記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局