団体からのお知らせ・インタビュー
[インタビュー]今まで以上に外に出られなくなってしまった子どもたちに~勇者の会 阿部さん
闘病による入退院での学習の遅れ、感染症の危険性、いじめなどによる不登校を対象とした子どもたちへの学習サポート活動を行っている勇者の会を取材しました。
勇者の会では、闘病により学習に遅れが出ているのにも関わらず、休校により学校のサポートが受けられない状態で、課題提出に取り組んでいる子どもたち、一人ひとりの体調に合わせてサポートを実施しています。代表の阿部美幸(あべみゆき)さんにお話を伺いました。
病気の子どもたちが置かれている状況
― まず、今回の事業を行うに至った経緯を教えてください
当会は活動を開始して3年になります。自分の子どもが小学3年生の時に急性リンパ性白血病を発症したのですが、闘病生活は入院生活と維持療法(自宅での抗がん剤治療)で長期間に渡り、勉強の遅れが深刻になります。発症の時期でも状況は異なりますが、小学校低学年や中学の前半で病気になった子は、学習の基礎や学校生活のペースができていないことに加え、生活の中で気をつけなければならないことが多く、学校に通うこと自体が大変です。小学生同士では、病気のことをなかなか理解できず、いじめや不登校につながることもあります。
勉強を教えている子どもは現在7名。勇者の会としては、勉強のサポートだけではなく、心のケアやリクリエーションなども行っています。中には、病気を告知していない子どももいるので、会の名前を伏せて接するケースもあります。
コロナ禍では、まず活動場所の確保が困難となりました。これまでも、インフルエンザなどの感染症が流行する時期にはオンラインも活用していましたが、公共施設や自宅訪問で行っていた学習サポートが、施設の休館や、外出・来客への不安によりできなくなり、全面的にオンラインに移行しました。
コロナ禍以前の交流や一人ひとりの思いが支える活動
― これまでの活動との違いや、難しさはどんなところですか?
学校が休校になり、子どもたちの元には、教育委員会から宿題が届くようになりました。そして、成績をつけるために学校からは課題の提出を求められます。学習に追いついていない、内容を理解できていないのに、課題を提出しなければならいないことが、精神的な負担となり、ストレスで体調を崩してしまった子どももいました。学校に対しては、病気の子どもたちの状況や必要な配慮について、保護者から伝え、掛け合ってもらうようにしていますが、残念ながら対応してもらえなかった学校もあります。
学習サポートチームには大学生や社会人15名ほどが参加しています。ボランティア希望の方の面接や研修も行っていますが、塾講師や家庭教師、教員免許を取得されている方など、教えたことのある経験者ばかりです。それでも、2割ほどしか継続しません。教える技術や知識があっても、子どもたちの気持ちに寄り添えないと、継続は難しいです。
オンラインになったことで、東京など遠方の方も授業に入ってもらえるようになりました。ただ、手元が見えない、子どもの表情が見えないなどの問題もありますし、先生方のネット環境も様々で、試行錯誤が続いています。zoomとLINE電話の両方を使って、「こうやって携帯で写して、こうして…」と、ボランティアチームの会議で共有しています。親御さん・お子さん・スタッフ・私(阿部さん)の4者での面談や、会議や交流会などを、(コロナ禍)以前より頻繁に開催していました。元々ボランティア同士の交流があったから、このような状況下でも活動が可能だった面もあると感じています。
先生方には、必ず学校の教科書に沿って授業してもらっています。3月頃にFacebookを通じて、小中学校の教科書の寄贈を呼びかけたところ、たくさん集まり、学習の準備をしてもらうことができました。一人の先生が平均3人ぐらいの子どもを担当し、週3日は授業を行っています。子どもたちも大変ですが、スタッフも本当に大変でした。これまで、なにもかもボランティアでやってもらっていたのですが、学校からの課題をこなすことも大変ですし、資料の印刷や通信費など様々な経費がかかるので、助成金から謝金や経費を出すようにしました。
― これまでを振り返っての感想や、新たに直面した課題について教えて下さい
休校期間中、子どもたちは本当にたくさん勉強をしました。5人の先生が入れ替わりで、1日中勉強。1教科50分、集中できる時間を設定し、体位の維持が難しい子もいるので、休憩をしっかり取るようにもしました。
現在は、自宅訪問は行っていませんが、子どもの性格に合わせて誰が担当するかなど、先生の交代や細かいケアを行っています。全体会議は月に2~3回開催して、すべての情報を共有しています。現在、受験生が2名いることもあって、頻度が多くなっていますね。高校の進路指導レベルだと思います。
ただ、オンラインにより学習の回数は増えたけれど、やはり直接会って、心のサポートも合わせて行いたいというもどかしさがあります。
近年では、北海道情報大学の協力を得て、外出できない子どもたちに浜辺で遊ぶ体験をしてもらえるようプロジェクションマッピングの制作も行いましたが、学校の課外活動に行ったことのない子どももいるので、今だからこそ、人が少なそうなカフェや施設、山登りなどの野外活動などの企画もしています。
一方、高校は出席日数だけでは進学・卒業が難しく、通信制高校への転入・編入を勧められることも多いですが、同世代の子どもとの関わりが減ってしまいます。勉強の遅れから高校に入学できない子どもも居ます。学校によっては、病気の子どもが在籍していた経験もありますので、そういった子どもへの配慮について、検討・工夫してもらえるように、高校や教職員組合などへの働きかけを行っています。
ひとりひとりに合ったサポートや楽しみを届けられるように
― 今後の活動についてお聞かせください
感染症の影響はまだまだ続くと思います。たとえ、「コロナは終わった(収束した)」と言われても、半年ぐらいは対面の教室を開くことはできないと思います。スタッフ全員、感染予防対策には、本当に気をつけてもらっています。
コロナの影響で、今まで以上に外に出られなくなってしまった子どもたちに、ひとりひとりに合ったサポートや楽しみを届けられるように、「何もさせてあげられなかった」じゃなくて、家族で楽しめることをこれからも実施していきたいです。
そして、活動資金のための寄付や、自宅の近くで勉強を受けられるよう、店舗の一部など学習会場・教室としての提供をお願いしています。
また、新しいかたちの『ファミリーハウス』を作りたいと思っています。ファミリーハウスは、自宅から遠く離れた病院に長期入院する子どもとその家族へ、経済的負担の軽減などを目的に宿泊施設の提供などを行っているのですが、ゆっくり過ごすことができる、疲れを癒せる、(病院とは違って)子どもたちが時間を気にせず遊べる部屋があったり、病気があっても楽しめる、勉強もできる。患者や家族を精神的にも支えられる場所を作るのが、最終的な目標です。
インタビューを振り返って
コロナ感染症が拡大している中でも活動が続けられるよう、年配のスタッフも若いスタッフに教えてもらいながらオンラインの使い方を学んだと伺いました。どんな状況にあっても子どもたち一人ひとりの状況に合わせて丁寧に関わっている様子がとても伝わってきました。
学習サポートにとどまらず、学校などに積極的に働きかけをしていきながら周囲の理解を増やしているところも団体の魅力だと感じます。(定森)
インタビュアー
定森光(さだもりひかる)
北海道NPOサポートセンター
※インタビューは、2020年9月16日に行いました。
記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局