団体からのお知らせ・インタビュー
[インタビュー]すべての親子が子育ち・子育てしやすい社会づくりをめざす~子育て応援かざぐるま 山田さん
NPO法人子育て応援かざぐるま
子育て家庭の孤立を防ぐために!相談機能強化オンライン6講座
(令和4年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 新型コロナウイルス感染症対策市民活動助成事業)
子どもがひとりの人間として尊重され、安心して豊かな子ども時代を過ごせるような社会をめざし、子育て中の親子と共に様々な人々と連携し、人と人、情報そして命を“つなぐ”事業を展開しているNPO法人子育て応援かざぐるまを取材しました。子育てひろばや預かり保育、森のようちえんなど、多岐にわたる活動に取り組んでいます。
今回は、代表理事の山田智子(やまだともこ)さんにお話を伺いました。
※右写真:子育て応援動画より
親になる前に子どものことを学ぶ機会があるわけではない
― まず、子育て応援かざぐるまの活動について教えてください
当団体は1986年6月に、女性の社会進出を支え、おとなもこどもも心豊かな時間を過ごせるように、安全で楽しい託児を心がけることを目的とし、「託児ワーカーズかざぐるま」として発足しました。当初は、『集団保育』を主として行っていましたが、1990年代後半からは、利用者のニーズに応える形で依頼された家庭に出向き、その家族が必要とするサポートや保育が主流となり、親御さんたちの話を聴きながら子どもの遊び相手も行う依頼が急増しました。振り返ってみると、親御さんたちは子育ての不安感や閉塞感、負担感を抱えていたと気が付くのですが、当時は保育士や幼稚園教諭の資格・経験者であるスタッフでも、親御さんとどう関わったら良いか悩んでしまい、葛藤と学び直しの時代が数年続きました。
日本の政策としても、ちょうど『子育て支援』という言葉が出てきた頃で、エンゼルプランなどの少子化対策が施行され始めた時代と重なります。社会の中で、”母親が子どもを他人に預けて、仕事や自分の時間を持つこと”が認知され始め、社会全体として、すべての子育て家庭への支援が必要だと認識されるようになってきていました。そのような状況を受けて、かざぐるまの活動も、単なる『託児』から『子育て支援』にシフトしていきました。また、子育ての現場を通して、地域の中で点在している親子が、お互いにつながっていないことに気づき、週1回地域の会館を借りて、親子の居場所づくりのための「子育てひろば」も開催するようになりました。
その後、2005年6月に法人化しました。次世代を担う子どもたちの健やかな成長を育む、すべての人々が必要とする情報やサービスの提供、子育て支援のネットワーク推進に関わる事業を行い、すべての子どもが安心して、心豊かに育つことが保障される地域社会の実現に寄与することを目的としています。それぞれの子育て家庭に寄り添った丁寧な支援と並行して、札幌市と北海道全体の地域子育て支援の質を向上させていこうと、道内の支援者がみんなで学び合う機会を作るよう努めています。
現在の活動の中心は、札幌市中央区円山で札幌市地域子育て支援事業ひろば型として運営している「子育て拠点てんてん」です。円山地区には、全国から転勤してきて”アウェイ育児”や”ワンオペ育児”を強いられている親子がたくさん住んでいるので、子育て拠点てんてんは、利用する親子の第二の実家として、子育て親子のつながりづくりとして交流の促進や、必要な支援として相談・情報提供・学びの機会提供などを行っています。
誰しも、親になる前に子どものことを学ぶ機会があるわけではありません。現代では、赤ちゃんの世話の経験や子どもの育ちを学ぶ機会を持てないまま親になる人の割合は、全体の75%になります。そのことを踏まえ、大学の発達心理学者、地域の小児科医師や助産師など専門家の協力も得ながら、子どもの心身の発達と、それを踏まえた関わり方に関する講習会を実施したり、『プレママ&プレパパと0・1・2・3歳児を育てる親子のための子育て応援ブック』という動画と連動した小冊子を発行して、全道の地域子育て支援拠点等に送り、応援ブックをテキストとして活用した研修会も行っています。
他にも自主事業として、訪問保育の利用親子のニーズにより始めた「産前産後サポート」や、子育て拠点てんてんでの「預かり保育」、2010年度からは、円山原生林の四季折々の自然を活用したで2歳児の森のようちえん「トコトコくらぶ」も週3回行っています。必要に迫られて、というか、地域の子育て家庭のニーズに応える形で活動していたら、いつの間にか活動がどんどん幅広くなっていきました。気付かないうちに活動期間も長くなり、私たちは子育て支援の分野では全国で3本の指に入る老舗になっています(笑)
★地域子育て支援拠点事業
地域の子育て支援機能の充実を図り、子育ての不安感等を緩和し、子どもの健やかな育ちを支援することを目的とし、乳幼児およびその保護者が相互の交流を行う場所を開設し、子育てについての相談、情報の提供、助言その他の援助を行う事業。札幌市では、公設公営の保育・子育て支援センターが10区10か所にあり、他にNPO等民間団体が運営しているひろば型、児童館を活用して行う児童館型がある。
コロナウイルス感染症拡大により3ヶ月半ほどの間一斉に休止となったが、子育て拠点てんてんでは、その間もスタッフを配置し、困ったときの親子の駆け込み寺として『なにかあれば来てください!』という体制を作りつつ、円山の森のアウトリーチも行った。
私たちのできること、やるべきことは何か
― コロナ禍において、活動への影響や親子を取り巻く状況はどうでしたか?
新型コロナウイルス感染拡大による子育て家庭への影響は大きかったです。感染拡大から2年以上が経ちますが、未だに子育てに関する支援センター等が閉鎖している所もあり、子育てに関する相談業務は電話でとどまっています。また、札幌市では未だに乳児10ヶ月健診もストップしている状態で、4ヶ月健診のあとは1歳半健診まで期間が空いてしまっています。各家庭に「心配な方はご相談ください」程度の封書でのぐらいのフォローでは、本当に必要な声を拾えないのではと思います。
コロナ禍で初めて子どもを生んだお母さんたちは、両親教室もない、立会分娩もできない、里帰りも実家の親に手伝いに来てもらうこともできない状況の中で出産を迎えました。赤ちゃんが生まれた後も、保健センターの乳児家庭全戸訪問が休止で、必要な子育ての情報を何も得られないまま、家で母子だけで過ごさなければならなかったのです。
先が見えない今、私たちのできること、やるべきことは何だろう?とみんなで考えた末に、自宅にこもっていても、子育てに必要な知識や技の伝承が必要と考え、2020年度のさぽーとほっと基金助成事業では、「プレママ&プレパパと0・1・2・3歳児を育てる親子のための子育て応援ブック」の作成と、その応援ブックに連動した子育て応援動画107本を作成しました。
★プレママ&プレパパと0・1・2・3歳児を育てる親子のための子育て応援ブック
★子育て応援動画
日頃から関係性を深め、お互いの取り組みを知っておく
― 今回の助成事業について教えてください
2019年に札幌で起きた2歳児衰弱死の事件(詩梨ちゃん事件)に対して、私だけではなく、子育て支援関係者は皆がショックを受け、その後もモヤモヤしながら活動を行ってきていました。そして、市内の地域子育て支援拠点(105か所)や、利用者支援専門員、各区の保健センターなどの子ども・子育てに関わる専門職の方たちと、もっと学び合いたいと思うようになりました。
コロナの感染拡大が長引いていた後も、札幌市の関係各所では、オンラインでの取り組みがほとんど行われていませんでした。Wi-Fiなどのネット環境が整っていなかったり、業務にオンラインを導入することに対する抵抗感があるようでした。国のオンラインの環境整備の補助金を活用して、ネット環境の整備を進めてはどうかと提案しても、なかなか進みませんでした。今後のことを考えれば、オンライン化は今のうちに進めるべきだと思っています。オンラインの活用が進めば、コロナ禍でも親子の顔や表情を見て相談対応することも可能になります。そこで、関係各所のオンライン化を進める一助として、札幌市と民間の地域子育て支援拠点のスタッフ、各区の利用者支援専門員や保健センターの保健師等、子ども・子育てに関わる人々が、子育て支援に関わる相談の受け方や対応の方法をともに学び、コロナ禍でもできることをみんなで考える場が必要と考え、オンラインを活用した6講座を企画しました。
― 今回の助成事業の反響などはいかがでしたか?
とても手応えを感じています。2時間の講座を6回実施しましたが、計50施設が参加してくれました。札幌市の全区の子育て支援係、地域子育て支援拠点や保健センターも参加してくれました。全道にも呼びかけ、帯広市・旭川市・釧路市などからも参加していただきました。ただ、やはりネット環境が整っていないから参加できないという声も少なからずありました。
6講座のうち2講座は「NPO法人子育てひろば全国連絡協議会」の協力も得ました。オンラインツールの使い方、オンライン相談での注意事項、オンラインひろば入門講座など、オンラインの活用についての時間を多くとりました。あとは相談支援の記録の取り方や事例検討、守秘義務について、その他、札幌市の取り組みに関する話も盛り込みました。
最終回の札幌市の取り組みの回では、最後に参加者全員でグループワークを行い、今後の活動について検討する場としました。単発の講演会だけでは、今後の市の活動に反映させるところまで持っていけないと感じていたので、民間と市の職員たちが、同じ土壌で学び合えたということに、とても意義を感じています。市の職員同士でも、隣の部署の取り組みを知る良い機会になったようです。”詩梨ちゃん事件”のような悲しい事件が二度と起きない地域社会をつくるためには、民間と行政が、行政内の部署同士が、何かあったときにすぐに必要なところにつなげることができるように、日頃から関係性を深め、お互いの取り組みを知っておくことが大切だと思っています。
今後は、もっと、子育てメッセ的な、子どもや子育てを取り巻く様々な分野の人たちが一堂に会して、自分たちの活動発表をして、お互いに学び合って、つながりたい人とつながれるような機会を作っていきたいと思っています。コロナの直前に一度、そのような取り組みを行ったことがあるのですが、もっと様々な人を巻き込んで、その拡大版をやってみたいと思っています。その時はぜひ市長にも来てもらって、今後の札幌市の子育て支援について、みんなで考える機会としたいです。一発の打ち上げ花火で終わるのではなく、しくみとして続けられるように頑張っていきます。
次のバトンを渡す人を育てること
― 運営上の課題や、今後の活動について聞かせてください
今は拠点の移転問題が一番です。マンションの老朽化で立ち退きしなければならなくて、移転先を探しているのですが、ここがどれだけ良い場所かをしみじみと感じているところです。転勤族が多い札幌市の中でも、円山という地域は特に多いです。自分が生まれ育った市町村以外で子育てをしている”アウェイ育児”を余儀なくされている親子が9割近くもいるのです。円山の転勤族の親子を捨ててはいけないし、子育て支援拠点は中学校区に一つの設置なので、移転するにしてもエリアが限定されます。それに円山の四季折々の豊かな自然環境も魅力的です。(※2023年4月現在、無事に円山エリアでの移転先が決まりました)
それから、私は今62歳ですが、この世代の人達が立ち上げたNPOは全国にも多いですよね。自身の身体のことや両方の親の介護、子や孫の子育て支援など、いろんなことを抱えながら30年間活動を続けていますが、この先のことを考えるとやはり、代表として次のバトンを渡す人を育てることが最重要課題です。若いスタッフも入ってきてくれて、日々の業務は回っているものの、正直なところ、法人の運営に関われる人材の育成がなかなかできていません。でも、今回の講座は人材の育成という点においても非常に有意義でした。うちのスタッフにも可能な限り参加してもらい、グループワークでの発表など聞いていると、スタッフの成長を感じることができました。
支援の担い手は育っている一方で、この先どのように団体を存続させていくか、成長させていくか。最低賃金に近い給与のため、独身の方や若い方への保障が難しいというのも課題です。働く場として魅力のあるものにするには、どうしていったら良いか、考えていかなければと思っています。
インタビューを振り返って
コロナ渦という大きな外部環境の変化の中で、オンラインを活用して活動を展開された点が素晴らしいと感じました。子育て支援に関するノウハウを体系化し研修としてまとめ・発信したことで、今後の更なる広がりが期待できると感じました。(久保)
インタビュアー
久保匠(くぼたくみ)
北海道NPOサポートセンター
※インタビューは、2022年11月16日「子育て拠点てんてん」を実施している法人事務所を訪問して行いました。