団体からのお知らせ・インタビュー

2021 / 12 / 15  13:50

[インタビュー]どうやったら響くのか、関心持ってもらえるのか~ レッドリボンさっぽろ 沼田さん・秋山さん

[インタビュー]どうやったら響くのか、関心持ってもらえるか~ レッドリボンさっぽろ 沼田さん・秋山さん

特定非営利活動法人レッドリボンさっぽろ
エイズ電話相談事業
(令和3年度札幌市市民まちづくり活動促進助成金 保健、医療、福祉の増進助成事業)

 

1995年から26年、HIV/エイズに関する不安に対し、親身に寄り添った電話相談を続けているNPO法人レッドリボンさっぽろを取材しました。

 近年、全国的にHIV/エイズに関連したNPO・NGOが相次いで解散し、相談先が減少しています。そんな中、レッドリボンさっぽろでは、相談しやすい夜間に、フリーダイヤルでの電話相談を継続しています。2020年度は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、札幌市でもHIV検査が一時中止となりました。「新型コロナの影響で、保健所の検査ができない。HIV検査ができるところを教えて欲しい」といった相談も寄せられました。

今回は、事務局長沼田栗実ぬまたくるみ・写真右)さん、事務局次長秋山満あきやまみつる・写真左)さんにお話を伺いました。

 

btn_01project2.gif予防啓発も陽性者支援も両方

― まず、レッドリボンさっぽろの活動について教えてください

(沼田さん)HIVの差別・偏見をなくすことを目的に活動しています。毎週火曜日の夜(19~22時)に電話相談を実施し、HIVに関すること全般、しっかり研修を受けた相談員が対応しています。会の発足と同時に電話相談を開始したので、20年以上続いている活動になります。

一方で、電話相談のみでは受け身の活動になってしまうので、様々な所で講演活動を行っています。学校では、HIVに関する基礎的な授業を。『HIV陽性者スピーカー派遣プロジェクト』として、当事者が「感染したらどうなるの?」と語りに行く活動も、秋山さんを中心に実施しています。現在は、コロナ禍で多くのイベントが中止になってしまいましたが、楽しく、正しい知識をつけてもらえるよう、ブース出展など積極的に行っています。

国際的な活動としては、キルトを製作する活動があります。ケニアやウガンダなど、母子感染によってHIVに感染して生まれてきた子どもや、HIVでお母さんがなくなってしまった遺児に温かいキルトを送る活動です。最近は、治療が進んでエイズで亡くなる方は減少しているので、現在はキルトを送ることにこだわらず、キルトの売上金をエイズ遺児支援のNGOに寄付しています。

また、『札幌市エイズ対策推進協議会』の委員を務めるなど行政への提言活動、LGBTの方々とも協働しながら広く啓発活動を行っています。『札幌市エイズ対策推進協議会』は、年1回の開催ですが、昨年度はコロナの影響で開催されませんでした。

 

― コロナ禍による活動への影響はありますか?

(秋山さん)『ななかまどプロジェクト』というHIV陽性者を対象とした活動があります。相談電話では、札幌市内・道内にとどまらず、全国各地からも寄せられるのですが、「同じ立場の当事者に会ったことがない」という方が多く、このプロジェクトの一環で、10年ほど前からHIV陽性者交流会 in HOKKAIDOを企画・運営しています。コロナ禍で、対面での開催が難しくなってしまったので、オンラインでも実施しましたが、年齢層の幅が広く、インターネットの環境が整わない方もいるので、やはりオンライン開催は難しいと感じています。現在は、2ヶ月に1回開催していますが、(コロナ感染の)状況次第では中止しています。参加者は、道内の方が多く10名前後。コロナ禍以前は、全国各地から来札されていました。

HIV/エイズに関する活動をしているNPOは、全国各地に40団体以上ありますが、予防啓発も陽性者支援も両方行っている団体は珍しい方だと思います。
メインで動いているスタッフは、7名ほどです。『ヘルプスタッフ』として登録しているボランティアスタッフは50~60名いますが、実際に活動に参加できる人は限られるので、マンパワー的には常に厳しいです。コロナ禍でスタッフの募集がしにくく、活動が見えにくいことも悩みです。

電話相談は、スタッフの確保ができないと実施できないため、お盆時期や年末年始はお休みすることもあります。緊急事態宣言中なども、スタッフ確保は厳しかったです。
相談は年間360件以上、毎回7-8件あったのですが、コロナ禍で状況はガラっと変わりました。相談件数がかなり減り、昨年度の相談件数は半数ほどになりました。自宅で過ごす時間が増え、一人の時間を持つことができなくなり、電話が掛けられない状況になった方もいるのではないでしょうか。

(沼田さん)さぽーとほっと基金の助成金では、フリーダイヤルの料金を助成していただいているのですが、電話相談が減り、フリーダイヤル料金も減ったので、昨年度は助成金を一部返金しました。
相談の方法としては、メールやSNS・LINE相談が増えてきていますが、文字でのやりとりにはスキルが必要です。フリーダイヤルで、しかも夜間に相談できる機関は、全国でも稀で、他には無いのではないでしょうか。電話は意思疎通がタイムリーに行えるので、伝わったかどうかをその場でフォローできますが、文字では間違って伝わってしまうことも。メールフォームでの相談もありますが、電話相談に移行するようにしています。

また、イベント関係はほぼ中止になりました。さっぽろレインボープライドでのブース出展・パレード参加や、北海道医療大学の大学祭でのブース出展、世界エイズデー札幌実行委員会にも協力していましたが、中止・縮小となり、この間はイベントでの出展ができていません。

 

 

 btn_01project2.gif「居ない」のではなく、「居る」ことを想定した社会づくりが必要

― HIV/エイズへの取り組みの状況について教えてください 

(沼田さん)私たちの活動、特に予防啓発は効果が見えません。検査数の推移が、私たちの活動による影響なのかどうかはわからないですよね。
私の場合、活動に参加するきっかけは、友人がHIV陽性をカミングアウトしてくれたことでした。私は当時学生で、研究室でレッドリボンさっぽろの活動を知り、参加しました。活動に参加して10年。日本の社会は、未だに「言える」ような状況ではありません。HIVが「特殊」と思っている人には、カミングアウトできませんよね。HIV陽性者は「居ない」のではなくて、「言えない」人が多いんです。もちろん、カミングアウトすることが正義・正しいことという訳ではありません。「言うこと」も「言わない」ことも尊重されることが大切だと思います。
医療はどんどん良くなっているのに、エイズやHIVへの偏見や差別は変わらないと感じます。社会が変わっていないことの虚しさを感じつつも、周りの人に助けられて、モチベーションを上げて、少しずつ、これからも一つ一つ取り組んでいきます。

(秋山さん)陽性者の間でも話題になるのが、病院を受診する時のことです。HIV拠点病院は、札幌だと北海道大学病院や札幌医科大学病院等のような大きな基幹病院となっていることが多いです。でも風邪を引いた時には、わざわざそんな大きな病院には行かないですよね。近所のクリニックなどを受診する際に、既往症としてHIVを書かなければならないんですが、みなさん、どうしていますか?ということが話題になります。

HIVの感染については、感染経路がはっきりしているのにも関わらず、過剰な予防策が時に見られます。『スタンダード・プリコーション』という、標準的な予防策で十分なのにも関わらず、防護服のような格好で対応されることもあります。医療者であっても、まだ偏見や正しい知識が無い方も居るのが、悲しいですね。病気を伝えるかどうかは個人の意思ですので、HIV陽性者が身近にいることを前提とした感染症対策をとっていただくとともに、HIVに感染していることを”わざわざ”伝えなくても良い社会にしていきたいです。

 

btn_01project2.gifHIVを軸にいろんなことを考えられる機会を

― 今後の活動についてお聞かせください

(沼田さん)課題はやはり、マンパワーと資金です。助成金を申請するにしても、新たな事業を実施しつつ、事務作業が煩雑になってしまうというのがネックです。事務作業を担当してくれるスタッフが本当に必要です。

あとは、情報発信。会の活動報告も大切ですが、関わっている人たちが「楽しい」を伝えてくれると嬉しいです。札幌芸術の森で「キース・ヘリング展」が行われていますが、キース氏はエイズによる合併症で亡くなったんですよね。コロナ禍でアウトリーチする場が減ってしまいましたが、今後も、様々なことをきっかけに興味を持ってもらえるよう、多方面から積極的に発信していきたいと思っています。

(秋山さん)うーん、やはり支出を減らしたいです。インターネットの通信費、事務所家賃、電気代など見直して、人を集めるための資源にしたい。これまでは、現在のメンバーでなんとかしていかなければと考えていましたが、お金を人に投資することも必要です。イベント時のスタッフも、無給でお願いしていたのを、交通費と手当を出せるようにしたい。若い人にも伝えたいので、コロナ禍後には大学へも積極的に訪問したいです。

(沼田さん)「HIVを知っている・知らない」ということではなくて、性行動が活発な世代に対して、HIV/エイズのことを伝える必要があると思います。札幌市は10代の人工中絶率が全国平均の約2倍と高いんです(札幌市発行「How To Safer Sex」を参考)。これは、性感染症の感染リスクも高いとも言えます。HIVの予防啓発を進めることで、正しい避妊にもつながる場合もあります。どうやったら響くのか、関心持ってもらえるかは、まだまだ手探りですが、HIVを軸にいろんなことを考えられる機会を提供したいです。

また、若い世代は、検査で感染がわかることが多いですが、社会人になるとエイズを発症してからわかる方も少なくありません。
HIV感染症は、治療法が進歩したことで、ウィルス量をコントロールしながら長期療養できるようになり、コントロール可能な慢性疾患と考えられるようになってきています。HIVに感染しても、今まで通りの社会生活を送ることが可能なのですが、何度も言っていますが、間違った知識・情報による差別や偏見が未だにあります。そのためにも、企業での講演機会を増やしたく、募集はしていますが、現時点で依頼はありません。HIVに感染しても諦めない時代。社会で活躍する陽性者の方が多くなることによる新たな課題です。

 

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インタビューを振り返って

HIVという言葉を聞く機会が減り、偏見は解消されつつあるのだと思い込んでいたので、「HIV陽性者は『居ない』のではなくて『言えない』人が多い」という言葉が印象に残りました。いまだ偏見が続いているからこそ、当事者に寄り添いながら、時代に合わせながら活動をしているレッドリボンさっぽろさんは必要不可欠な存在であり、活動を応援していきたいと強く思います。(定森)

 

 

インタビュアー 
定森光(さだもりひかる)
北海道NPOサポートセンター
※インタビューは、2021年8月26日に行いました。

記事作成
佐藤綾乃(さとうあやの)
支援協議会事務局

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